朝日・川本裕司記者のモーニングショー攻撃を考える

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 朝日新聞で主にテレビメディア論を中心に記事を書いている川本裕司・社会部記者が、雑誌「論座」のサイトに書いた記事が同サイトやツイッター上で炎上状態になっている。
 これは、

コロナ報道におけるテレビ朝日・玉川徹コメンテーターへの疑問/生命に関わる問題があぶり出したよろずコメンテーターの限界

 という2020年4月20日付けの記事で、内容はテレビ朝日の朝のニュース・情報番組「羽鳥慎一モーニングショー」における、玉川徹コメンテーターの発言が一貫していないという批判である。
 ぼくはすでにツイッターでこの問題に触れたのだが、ここでは少し詳細に論じたい。

テレビのコメントに疑問を投げかける川本氏

 まず公平に言って文脈だけから見れば、川本氏の主張は、テレビのニュース・情報番組一般について、命に関わる問題に対し「知見を持たないコメンテーターが、自信をもって発言するのはそもそも無理がある」、「よろず屋のような役割を担わされ」たコメンテーターが「テレビの作法や芸」として「反射神経のコメント」をするのはよくない、と言うことになろう。
 これにはぼくも強く賛同する。有象無象の「文化人」がテレビ、新聞、雑誌、ネットメディアにおいて、いい加減で、無責任で、論理的・科学的根拠の無いトンデモ発言をどれほど垂れ流しているか、そしてそれがコロナ禍をより混沌とさせ感染拡大を阻害しているか、腹立たしいほどである。

記事の本当の狙いは何か

 しかし、川本氏の記事の本当の主眼はそこにはない。
 「出演者個人の問題ではなく」「玉川氏が他番組のコメンテーターよりも問題があると判断したわけ」でもないと断ってはいるが、この記事は明らかにモーニングショーと玉川徹氏を標的にして攻撃することを意図したものと言わざるを得ない。ろくでもない番組やコメンテーターは数多あるのに、COVIT-19流行の初期から政府に名指しで攻撃されているこの番組とコメンテーターをわざわざ選んでいるのだ。そこには少なくとも何らかの理由と目的がある。まさしく記事の大半は玉川氏批判なのである。
 記事によれば、安倍首相から7都府県に緊急事態宣言が出された翌日くらいの同番組で、ジャーナリストの田崎史郎氏が(なぜかこの部分について川本氏ははっきり書いていないのだが)政府の方針として企業への休業要請を「『2週間の様子を見てから』」行うと解説したのに対し、玉川氏は「『旧日本軍がやって大失敗した戦力の逐次投入をやろうとしている。投入できるものは一気に投入する。閉めてくださいという要請には(ママ)一気にお願いする』」べきだと主張した。
 しかし玉川氏は、その数日前に「コロナ問題で減収に見舞われた人たちの救済策として」「『スピードを優先させまず現金を配る。足りなければまた配ればいい。それを繰り返せばいい』」と述べており、これは前述の主張と「違う理屈」になっており「論理の一貫性の欠如を露呈させて」いる、というのが、いわばこの記事の肝の部分である。
 さらに記事はこのことを「これでは安倍政権を批判するためならどんな理屈をつけても構わない、と受け止められても仕方がない」「発言の信頼性に関わるような変わり身」とまで断罪する。
 また玉川氏はよく「『この件については以前取材したことがある』」と言うのに、COVIT-19についてはそう言ったことがなく、だから「感染症については取材した経験がないのだろう」と川本氏は<推察>する。

川本氏の記事の誤りと詭弁

 しかしCOVIT-19はやっと昨年末に発見された感染症であって、その取材をしていないのは当然のこと。だから玉川氏がそんなことを言うはずがないのである。ただこの番組を以前から見ていればよく分かるが、玉川氏は(失礼を承知で言えば)感染症恐怖症であり、健康オタクでもあって、医療関係の取材経験も豊富だ。川本氏の同記事の内容や氏の経歴を見れば、玉川氏のこうした立ち位置を知っていてもおかしくないし、その上であえてこのような書き方をしているのであれば悪意さえ感じてしまう。
 ちなみにインフルエンザ予防の心構えについて、玉川氏が毎シーズン、曜日コメンテーターの長嶋一茂氏と掛け合いのような論争をするのは名物にもなっている。もうひとつ脱線すれば玉川氏も川本氏も同じ京都大学の出身で、玉川氏は理系の農学部、川本氏は専門はわからないが教育学部だそうだ。
 さてしかし一番の問題は、果たして川本氏が言うように玉川氏の論理が破綻しているのかどうかである。本当にコメントはその場その場の「反射神経のコメント」で一貫性が無いのだろうか。
 おもしろいことに、炎上コメントの傾向として、川本氏の主張に賛成する人たちはあまりこのことに触れていない。一方、川本氏を批判する人たちの多くが玉川氏のコメントに矛盾は無いと指摘している。
 確かにその通りで、「一気に投入」と言うのは、疫学的対応において出来ることは一気にやらないと上手くいかないと主張しているのであって、一方の「足りなければまた配ればいい」と言うのは、記事に即して言えば「コロナ問題で減収に見舞われた人たちの救済策として」、つまり経済対策の脈略での発言である。
 朝日新聞では「ご飯論法」として安倍総理の国会答弁を批判してきたが、川本氏の論理展開はそれ以下のただの詭弁でしか無い。違う問題設定についての発言を同じまな板にのせて批判しているのである。たとえて言えば、「人は誰しも自由に行動する権利がある」と主張する人が「誰であれ人を殺してはならない」と言った時、殺人者も同じ人間なのだから彼の殺人という自由を否定するのは矛盾していると非難するようなものだ。確かにごく一部の人は殺人の自由を肯定するかもしれない。しかしそれは論理の一貫性かどうかの問題では無く思想性の問題である。そして実際のところ、川本氏のこの記事も本質的には思想性、というより政治性によって無理矢理ねじまげた論理で書かれていると考えられるのである。

それが経済対策で無いとしても

 そのことはすぐに論じるが、その前にしかし、一応考察しておくべき点がある。それは、玉川氏の「足りなければまた配ればいい」論は本当に経済対策への言及と捉えて良いのかという点だ。そしてもしこれが疫学的対応に関するコメントだった場合、それは結局論理の矛盾となるのかどうかである。
 玉川氏はこの番組の中で一貫して補償金ないし支援金の即時一括給付を主張している。それは今回のコロナ禍で減収した人への生活保障と言う意味の他に、企業活動に対して補償が無ければ自粛は進まないという考えもある。(なお、この二つの側面、および経済の落ち込みに対する底上げ政策を加えれば三つの側面になるが、これらは一般的になかなか区別して論じられることが無く、そこがひとつの混乱の原因なのだが、今はその議論は置いておく。)
 ただし正確を期せば、玉川氏は少なくとも当初は企業の利益への補填は出来ない、個人の生活保障のために迅速に広範囲に給付すべきだとの意見であった。
 しかしもし企業活動の自粛=感染拡大阻止という論理で給付金が必要だとなれば、これは疫学的対応の一環とも言える。それではここで「足りなければまた配ればいい」と言ったら戦力の逐次投入論になってしまうのだろうか。ぼくはそうは思わない。話の脈略から言って玉川氏は別に10万円の給付を求めたわけでは無い。というより出し惜しみせず出せるだけ政府はカネを出せ、そのためには赤字国債の発行もやむなしというのがその主張だった。とにかく今可能な限りで一番早く出せるだけの給付をして、それでは当然足りなくなるから第二弾、第三弾でどんどん給付せよと言うのが「足りなければまた配ればいい」というコメントの真意だった。
 このことは自粛要請の議論の際でも、出し惜しみせず「一気に投入」するべきという主旨となんら矛盾しないし、ようするに同じ事を言っているのである。もちろん玉川氏とて「一気に投入」と言っても物理的に不可能なことまで求めているのでは無い。
 以上のように川本氏の「論理の一貫性の欠如」論はたんなる言いがかり、難癖でしか無い。申し訳ないが小中学生レベルの詭弁と言うしかない。

川本氏の言う「確かな助言」とは

 川本氏は「視聴者が求めているのは」「知識に基づいた確かな助言のはず」と主張する。その点に異論は無いが、それでは「確かな助言」とは一体何なのだろう。ぼくはまさに羽鳥慎一モーニングショーこそ、それを提供してきた番組だと思っている。視聴者の中には田崎史郎氏の出演を快く思わない人もいるようだが、ぼくはそれも含めて多角的・立体的に「知識に基づいた確かな助言」が浮き上がってくるように見える。
 だが川本氏は否定的だ。では川本氏にとって「知識に基づいた確かな助言」はどこにあるのか。実は「論座」のサイトには川本氏の次の記事も掲載されている。

日本でコロナによる死者が少ない理由を解明したNスペ

 これはNHK総合テレビで4月11日に放送された「NHKスペシャル/新型コロナウイルス/瀬戸際の攻防」という番組の視聴評である。ぼくは見ていないが、記事によると厚労省クラスター対策班に密着取材したドキュメンタリーで、政府の専門家会議の押谷仁教授とクラスター班の西浦博教授に焦点を当てた構成だったらしい。
 記事の概略は番組自体の評価と言うより、「検査が不十分という批判を受けながら死者が少ない日本の感染の実情を解き明かし」、「危機管理の専門家」の「指摘するのとは違い」「なるべく多く検査して感染者を発見し重症化を防ぐという海外の対策と異なり、クラスターつぶしで重症患者を出さないようにするという日本の対処の独自性」を称賛。
 そして「押谷教授は、病院でPCR検査を増やすのは感染者を拡大させる恐れがあるとして否定的だった。同時に、社会経済生活をなるべく維持しながら感染拡大を阻止する道を選択した」と、その判断を高く評価。
 「情報番組などのコメンテーターの強い口調での警告や激論が空回りしているのではと思えるように、押谷教授と西浦教授は静かなたたずまいで落ち着いた口ぶり」で、都市封鎖の「中国・武漢や欧米」、情報公開の「韓国とは違う手法で立ち向かって」いると持ち上げる。
 最後に今後のNスペには「日本でもお手本にすべきだという声が多いCDC(米疾病対策センター)がありながら、米国で最大の死者を出したのかという検証にも期待」しているのだそうだ。

何の見識も無い提灯記事

 実に番組自体にも、専門家会議やクラスター対策班に対しても一切の批判は無い。記者独自の視点からの指摘も無い。ただただ日本の対策は素晴らしい、成功だと称賛と賛美のオンパレードだ。何も知らずに読んだらNHKの番宣素材だと勘違いしてしまいそうだ。これが新聞記者の書く番組評なのだろうか。
 まあ、それはともかく、つまりこの記事もまた番組評論が目的なのでは無く、本当の狙いは安倍政権のコロナ対策は全面的に正しい、世界のどこよりも素晴らしいと宣伝することにあるのである。こういうのを世間では提灯記事と呼ぶ。
 「いま、コロナ問題を取り上げるニュース・情報番組のコメンテーターやキャスターは、政府の施策に対して思い思いの意見を述べるか、政府・自治体に成り代わるかのように『家にいましょう』と呼びかけるか、だ」などとよく書けたものだ。自分が思いっきり政府に成り代わっているではないか。こう言っては何だが、今や安倍総理の提灯持ちなどと揶揄される田崎史郎氏でさえ、ところどころで安倍首相に鋭い突っ込みを入れることがある。たとえそれが演出・芸であったとしてもだ。テクニックの話をするのも場違いだが、そうやって少しの批判を混ぜるから話に重みや信憑性が増すのである。それと比べると川本氏の記事は下の下と言わざるを得ない。
 こうやって眺めると川本氏がなぜモーニングショーと玉川氏を批判するのかが分かってくる。川本氏は「これでは安倍政権を批判するためならどんな理屈をつけても構わない(姿勢)」だとして玉川氏を攻めるが、それは実は真逆であって、安倍政権の政策を批判する者を貶めるためなら、どんな理屈をつけてもかまわないというのが川本氏の姿勢なのである。
 だが彼には見識が無い。玉川氏の疫学的対策の提言に対して正面から反論する力が無い。だから無理矢理な詭弁を使ってなんとか玉川氏を否定しようとしたのである。それが証拠に、玉川氏が「岡田晴恵・白鴎大教授(感染症学)の主張と同じ立場」と認めつつ、その岡田教授の発言には何も反論しないのだ。押谷氏、西浦氏の手法が全面的に正しいと主張するのなら岡田氏を批判するのが当然だが、川本氏にはそれが出来ない。

最後に

 新型コロナウイルスの流行はもはや日本の医療を崩壊させる直前にまで来た。誰の目にも政府のクラスター潰しの戦略が失敗したことが明らかになった。なぜなら、クラスター潰し戦略は感染のピークの山を小さくして時間稼ぎをし、その間に体制を整えて医療崩壊を防ぐというものだったのだから。
 専門家会議の四日間待機ルールも批判の的になっている。そうしたらなんと専門家会議のメンバーや医師会の会長らが「四日間待てとは言ってない、それは誤解だ」などと逃げ始めた。
 そもそも政府の緊急事態宣言後に2週間様子を見るという方針だって、小池都知事に押し切られて早まったが、結果を見れば歴然で、やはり早い自粛要請が必要だったことが明白である。PCR検査の拡充も(少なくも口先だけは)進めていくと政府が言わざるを得ない状況が作られてきた。
 つまり、結果論かもしれないが、結局、モーニングショーで岡田教授や玉川コメンテーターが警告し提言してきたことが、どんどん現実になってきているのだ。それが事実である。
 川本氏がジャーナリストとして何を賭けているか知らない。しかし、羽鳥慎一氏も玉川徹氏もコロナ騒動が収まった後でどんな批判を受けてもかまわない、だが今言わなければならないと確信することを伝えるのが自分たちの使命だと、覚悟を持って番組を続けている。岡田教授も不休でテレビに出続け、しかも公然と政府の専門家会議メンバーに「生データを出せ」「エビデンスを示せ」と迫っている。彼女の立場からしたら大きな代償を払わざるを得ない行動である。正直言って、ぼくの政治的・思想的立場は彼らの側には無いし、必ずしも彼らの主張が全て正しいとも思わないが、しかしこれだけは確信している。このような覚悟と気迫を持った人々に川本氏の提灯記事が勝てるわけは無い。
 表現の自由があるのだから、何を書き、何を主張し、何を批判しても良いだろう。しかし結果が、歴史が最後は判定を下してくれるはずである。

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